砂埃がいっぱいに舞って、でも一瞬で判断した。
あいたかった、あえなかった、ずっと心の何処かで探していたひと。
「エド」
小さく呟いた声は轟音に掻き消されたが、目の前の幼馴染はいつもの夢の様には霧散しなかった。
……あぁ、ほんものだ。
「エド…ッ」
頭で考えるよりも先に駆け出して抱きついていた。
温もり、匂い、背の高さ。
少しずつ変わっていたけど、その根本は一緒。
ずっと見てきた幼馴染。
「ウィンリィ」
「ばか!心配したっ」
潤む瞳を隠さずに、彼の金目を真っ直ぐに見据える。
知る限り、エルリック兄弟とその父親しか持ち得ない目の色。
「ただいま、ウィンリィ」
何とも情けない笑顔で言う彼に愛しさを覚えながらも、そんな感情は胸の中に押し込める。
悟られるな。
「でも、すぐに行くんでしょう?」
ずっと前から知っていたこと。
出来るだけ気丈に振舞って、精神的に不安定なエドワードの背中を押すこと。
それが私の仕事。
私の意志なんて、最初から要らない。
「ごめん…」
「ほら、腕出して。さっさと整備してあげるから」
毎晩、夢に見ない日はなかった。
追いかけて、追いかけて、結局いつも追いつけない。
現実でもほら、絶対に追いつけない場所に行こうとしてるでしょう?
「エド」
「ん?」
最後の部品を締めながら、本当に小さく、出来れば彼に届かないようにと思いながら呟いた。
「がんばれ」
これで、最後。
一歩距離を取ろうとしたら、不意に腕を引かれた。
バランスが上手く取れずにエドの肩に顔をぶつけ、そのまま左手で頭を撫でられる。
「ありがとう。…ごめんな」
今まで聞いたことのないくらいに真剣な声音で囁かれ、逆に怖くなった。
現実が、痛い。
「そんなせりふ、らしくないわよ」
色々な気持ちを誤魔化して、それだけ言う。
こちらから彼の肩を押して、今度こそしっかりと距離を取った。
精一杯に笑顔を作って、最後の言葉を紡ぐ。
―――いってらっしゃい。
(2008.1.22)