ひとつ溜め息を吐いて、腕時計を確認する。
既に待ち合わせ時間まで10分を切っていた。
例え普段通りに電車が動いていても、あと10分では絶対に着かない。

――久し振りに会えるのに。

誰にともなく内心で悪態をつき、また溜め息。
そんなことをしても状況が好転するわけではないが、どうしても落ち着かない。
台風の影響で速度制限が掛かっている電車のダイヤは乱れに乱れ、やっと乗れた電車も混んでいる上動いては止まり、の繰り返し。

…リュウちゃん、もう着いたかな。

もう一度時計を確認して、やっとの思いで鞄から携帯電話を取り出す。
電話もメールの着信も無し。
どうやら彼は、無事に待ち合わせ場所まで向かっているらしい。
そんなことをしているうちにまた電車が止まる。

……あぁ、遅刻決定。

とはいえ、満員電車内。
携帯電話は手に持っているが、電話は勿論メールも出来ない。

思えば、私たちはいつもこう。
会うはずのないときに会ったり。
…逢えると思っていても逢えなかったり。

そこまで考えて頬が緩む。
もうそんな不安を抱かなくとも良いのだ。
こんなに余裕が出て来たのはいつからなんだろう。
今だって、以前とは比べられないほどに心は落ち着いている。
今日もきっと、ううん、絶対にリュウちゃんは待っているから。

「あ、」

携帯電話のバイブ音が、成歩堂が待ち合わせ場所に着いたであろうことを告げる。
しかしあやめの状況は先程から何も変わらない。
仕方がなく携帯電話を握り締めたまま電車が動き出すのを待つ。


漸く待ち合わせの駅まで着いて、ホームで携帯電話を確認する。
Eメール着信、一件。すぐさま開いて、小さく笑ってしまう。
電車が送れています、満員電車でメールすら打てなくてこんなにギリギリになってしまった、と。
思わず緩んだ頬を引き締め、改札から出る。


さあ、すぐに逢えるかしら?




変 化
(心の距離はきっと、)






(2008.5.22)















あとがき

や、ヤマなしオチなし意味なし…!(それ違う)