何にでも期限がある。
提出物、食べ物、記憶。
それから、私たちの場合は関係。
タイムリミットは、姉の限界がくるとき。
<恋人たちの有効期限>
少しずつ成歩堂龍一という男に惹かれていたあやめは、そのときが来ることに『怯え』を感じていた。
しかし、これ以上姉を裏切ることは許されない。
「あのね、リュウちゃん。お願いがあるんです」
その言葉から始まる話題はただひとつ。
「その小瓶のペンダントを返してくださいませんか?」と。
ただ、あやめがそれを口にすることに躊躇いが出てきたことも事実。
もしも返されてしまったら?
今、成歩堂と恋人で居られるのはペンダントが彼の手の中にあるから。
あやめが扮している双子の姉、ちなみは彼のことが嫌い。
最近では「殺しちゃえばいいじゃない」などと言い出すほど。
ペンダントを取り返したら、あやめが成歩堂と会うことを止めさせるどころか、ちなみの前に現れることすら許さないだろう。
そこまで考えてあやめは自嘲気味に笑う。
……こんなに悲しくなるなんて。
時間がないことは初めから判っていたではないか。
おねえさまのために。
自分の考えは捨てて姉の服に袖を通す。
今は姉の指示に従うしかない。
それに。
いくら足掻いても、あやめ自身が彼の思い出に残ることは無いのだから。
(2007.05.03)