童話五題 人魚姫


嘘を吐く。
凄く嫌な行為だ。
嘘を吐かれる。
とても嫌なことだ。

でも、その笑顔は本物だろ?

嘘をつけない王子様

はぁ。
そう息を吐いた彼女に、申し訳なさと不信感を同時に抱く。
日に日に彼女の警戒心が解かれていくのは分かっていたのだが、いくら親しくなっても「ペンダントを返して」とその一言だけは毎回忘れずに言った。
――そんなに大切なものなのだろうか。
思えば渡されたときも、どちらかと言えば『押し付けられた』という表現が正しいくらいに、あのときの彼女は焦っていた。

…そして、いつもその直後に二回目に会ったときの違和感を思い出す。
初めて会ったときよりも緊張した表情、微笑むだけの笑み、そしてそれ以上の警戒心。
単なる思い違いだとは思うが、どうしても拭い切れない疑問点。

いくら考えても分からない。

「リュウちゃん、考えごと?」
彼女の問いに、んー、まぁと曖昧に笑う。
そんな行動しかしなかった為か彼女は少し首を捻りながら、それでも笑って口を開いた。

「疲れているのかしら?…あまり無理をしないでね」

――見惚れた。

綺麗に笑った彼女から、目が離せなかった。

「そうだ、ちいちゃん」
無意識のうちに呼び掛けて後悔する。
…あぁ、名前は呼ばないように気を付けていたのに。
案の定、目だけが動揺の色を示してすぐに微笑んだ。
今度は、何かを誤魔化すような笑みで。
自己嫌悪に陥りながら、訊きたかったことを尋ねた。

「今度の休み、どこか行きたいところある?」
「私、海に行きたいわ」

あまりに素早い返答で、一瞬何を言われているか分からなかった。
……うみ、って。
あれだよな、水があって波がある。

「い、今は冬なんだけど…!?」
「…まだ秋だと思うけれど。でも行きたいわ、駄目?」
「駄目ではないけど…」

正直寒いと思う。
その一言が口に出されるときは来なかった。
珍しく彼女が「行きたい」と自分の意志を主張したから、出来るだけ叶えたい。
そう思ったから。

「じゃあ行こうか」
「はいっ」

とても嬉しそうな笑顔に、心が温かくなった。
それと同時に違和感だとか不信感とか、そんなものは関係なくなっていた。

――今、傍に居てくれる。
それだけで、十分だった。








(2008.2.04)
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